JR東海、2027年のリニア開業断念 静岡着工メド立たず
JR東海は29日、リニア中央新幹線の東京・品川―名古屋間について、最短で2027年としていた開業目標を断念する方針を明らかにした。トンネル掘削による川の水量減少などを懸念する静岡県が県内区間の工事に反対している。着工のメドが立たず早期開業は困難と判断した。
同日、国土交通省で開かれたリニア静岡工区の水資源や環境保全対策を話し合う会議でJR東海が示した。会議の冒頭、JR東海の丹羽俊介社長は「静岡工区が名古屋までの開業の遅れに直結している。27年の開業は実現できる状況にはなく、新たな開業時期を見通すこともできない」と述べた。
沢田尚夫常務執行役員は静岡工区について「山梨や長野工区の掘削実績を踏まえても(工事契約を結んだ)17年に考えていた工期を短縮できず、さらに延びる可能性がある」と述べた。同社は静岡工区の着工から開業まで10年程度を見込んでおり、仮に24年に着工したとしても、品川-名古屋間の開業は最短で34年以降にずれ込む計算となる。
JR東海は14年に品川―名古屋間のリニア工事に着手した。静岡工区は全長約8.9キロメートルで、17年に大成建設と佐藤工業の共同事業体と工事契約を結んだ。同年、静岡県の川勝平太知事が南アルプスのトンネル工事による大井川の水量減に懸念を示し、工事反対を表明した。
水資源や生態系の保全策を巡る協議も長期化し、建設が遅れた。JR東海は23年12月、「27年」としていた工事完了時期を「27年以降」として国交省に申請し、認可された。その後も静岡工区の着工ができないまま、工事契約の締結から6年4か月が経過した。
リニア中央新幹線は最高時速500キロメートルで走行し、品川―名古屋間を最速40分、品川―大阪間を1時間強で結ぶ計画。品川―名古屋(約286キロ)の総工費は約7兆円に及び、この見通しは現時点で変えていない。難工事の対応で21年に5.5兆円から上積みした経緯があり、今後さらに膨らむ懸念もある。
品川―名古屋間は約9割の区間で工事が契約済み。開業延期により、各地で進む工事も工期の見直しを迫られる可能性がある。避けられそうにないのが、リニアを地域再開発の要に位置づける沿線自治体への影響だ。名古屋市はリニアを前提に名古屋駅周辺の再開発を進めているほか、関西圏でも37年の開業の遅れを懸念する声が強まっている。
沿線自治体でつくる「リニア建設促進期成同盟会」会長の大村秀章・愛知県知事は29日、「沿線都府県は27年開業を目指して様々なプロジェクトに取り組んできた。ずれこむのは断腸の思いだ」と訴えた。静岡工区について「前向きな解決策を見いだし、一日も早く着工することを望む」と強調した。
▼リニア中央新幹線 JR東海が2014年に着工した東京と大阪を結ぶ新路線。超電導磁石を使って浮上して走行し、最高時速は約500キロメートルと従来の東海道新幹線の2倍近く。東京・品川から名古屋までの所要時間は現在の約1時間30分から40分に短縮される見通しです。
<2020年6月27日掲載>