パキスタン首相にシャリフ前首相選出 野党は反発
【ニューデリー=岩城聡】パキスタン国民議会(下院)は3日、新首相を選ぶ投票を行い、パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派=PML(N)=のシャバズ・シャリフ前首相を選出した。PML(N)はパキスタン人民党(PPP)と連立政権を継続する。
2月8日に実施した国民議会総選挙では、国民に人気のあるカーン元首相が率いる野党パキスタン正義運動(PTI)を支持する無所属候補が90議席以上を獲得し、最大勢力となっていた。PML(N)は75議席、PPPは54議席にとどまった。
PTIは日本経済新聞の取材に対し「国民の信任を得ていない非合法な政権に挑戦し続ける。法律が認める通り、街頭で平和的に抗議することに挑戦する」と語り、今後、反発を強めていく姿勢を強調した。
首相に選ばれたシャリフ氏は2022年、当時野党だったPML(N)を率い、軍との関係が悪化したカーン政権を軍と共に打倒した。カーン氏の経済失政を問責し、下院でカーン氏の不信任案を可決し首相職から失職させた。その後、昨年8月に下院が解散されるまでの約16カ月間、首相を務めた。
シャリフ氏の首相在任中に国土の3分の1が水没する大洪水に見舞われた。この洪水による経済的損失は推定300億ドル(約4兆5000億円)と言われ、経済は債務不履行(デフォルト)寸前まで追い込まれた。昨年7月に国際通貨基金(IMF)が30億ドルの融資を承認し、デフォルトの危機は脱したが依然として状況は厳しい。
政府が今年半ばまでに支払うべき債務は250億ドルに上るとされる。シャリフ氏はIMFに対し新たなプログラムを求め直ちに交渉に入る構えだ。
パキスタンの外交専門家のマンスール・アフマド・カーン氏は「政府が非常に不安定な状態にあるうえ、総選挙に不正操作の疑惑があるなかで、IMFが資金供与を迅速に承認するとは考えにくい」と語る。
PTIを支持する無所属議員らは当選後、弱小政党に集結した。3日の首相選では無所属の独自候補を立てたがシャリフ氏に敗れた。PTIは「そもそも総選挙で、広範な投票結果の操作が行われ議席が盗まれた」と主張し続けている。
加えて、カーン氏は先月末、IMFに書簡を送り「パキスタン国民にさらなる債務を負わせることになる。融資枠を与える前に選挙結果の監査を実施すべきだ」と要請。IMFの判断に一定の影響を与える可能性もある。
PTIが国会の内外で反発を強めれば、シャリフ政権は議会運営において困難に直面する公算が大きい。政権が弱体化すれば軍指導部の影響力強化につながりかねない。
シャリフ新政権が国家や経済の安定のためにPTIに対してどのような対応方針を採るかが注目される。
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