ホンダ、賃上げ2万1500円 2年連続で前倒し回答
ホンダは21日、2024年の春季労使交渉で労働組合の要求に満額で回答した。賃上げ額は会社側が確認できる1989年以降で過去最大となる。一時金も過去最高で満額回答した。実質的な初回交渉となる2月下旬の早期決着は2年連続と異例だ。電動車を巡る人材獲得競争が激しくなる中、組合側と考え方が一致した。
組合は基本給のベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分と定期昇給の合計で月2万(組合員平均)の賃上げを求めていた。22年の労使交渉で妥結した研修費関連の費用の原資を給料に再配分した分を加えると月2万1500円の賃上げとなる。
21日午前に開いた労使の団体交渉で会社側が回答した。総額の月2万1500円は賃上げ率で5.6%となり、1990年の6.2%以来34年ぶりの高水準となった。
このうちベアは、組合が要求した月1万3500円(組合員平均)に満額回答したうえで、再配分した1500円を上乗せした。ベア額の合計は89年以降で最大となる。ベア率は3.9%で、1990年(4.2%)以来34年ぶりの高水準となった。
一時金は7.1カ月分の要求に満額回答した。過去最高だった23年の6.4カ月分を上回り、7カ月の大台を超えた。ホンダは新車販売などが好調で24年3月期の連結営業利益(国際会計基準)が前期比60%増の1兆2500億円を見込む。一時金に反映した。
賃上げの反映は若手社員を手厚くする。新入社員の初任給について、大学新卒の場合は現行給与から4.5%増の26万2300円にする。高校新卒の場合は5.4%増の20万3400円を示した。いずれもベアの平均改善率である3.9%を上回る。
ホンダは40年に全新車を電気自動車(EV)か燃料電池車(FCV)にする方針を掲げている。同社は自動車やソフトウエア人材でも人材獲得競争が激しくなっている。主力の二輪事業を含め、グローバルで戦える優秀な人材を採用をできる体制を整える。
非正規従業員の処遇も改善する。平均5.3%の賃上げを実施する考えだ。継続的な物価上昇で実質賃金が低下するなか、従業員の生活に対する不安を取り除き、安心して仕事に取り組める環境をつくる。
2年連続で早期回答となった。近年は組合要求に回答する時期は3月上旬だったが、ホンダ労政部の稲村真矢部長は「(電動化を巡る動きなど)労使で課題の認識が一致しており、結果として早い回答となった」と説明した。
ホンダ労組は「事業環境の変化が激しい中、満額での早期回答は、変革に取り組む『人の力』を更に引き出すものと受け止めている。また、社会的な賃上げの流れを後押しすることにもつながる。労働組合としては回答を受け入れる方向である」とコメントした。
賃上げは賃金水準を一律に引き上げるベースアップと、勤続年数が上がるごとに増える定期昇給からなる。2014年春季労使交渉(春闘)から政府が産業界に対し賃上げを求める「官製春闘」が始まった。産業界では正社員間でも賃金要求に差をつける「脱一律」の動きが広がる。年功序列モデルが崩れ、生産性向上のために成果や役割に応じて賃金に差をつける流れが強まり、一律での賃上げ要求の意義は薄れている。
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