任天堂が一転増収増益に 24年3月期、円安と知財寄与
任天堂は6日、2024年3月期の連結純利益が前期比2%増の4400億円になる見通しだと発表した。3%減の4200億円だった従来予想から一転、増益を見込む。「ゼルダの伝説」の新作のヒットなどを受け、通期のソフト販売計画を従来より引き上げた。円安による為替差益や、「マリオ」の映画など知的財産(IP)関連の収益増も寄与する。
売上高は2%増の1兆6300億円、営業利益は1%増の5100億円を見込む。従来予想より500億円、100億円それぞれ上方修正した。年間配当は189円と、従来予想より8円積み増す。株式分割を考慮すると、実質的に前期比3円の増配を計画する。
ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の販売は14%減の1550万台、ソフト販売は11%減の1億9000万本になりそう。スイッチは50万台、ソフトは500万本、それぞれ予想を引き上げた。有機ELモデルを中心に7年目のゲーム機としては堅調な販売が続いている。
ゲーム機とソフトの販売が前期を下回るなかで増益になる最大の要因は為替だ。任天堂は海外売上高比率が約8割に達し、円安の恩恵を受けやすい。今期の期中平均の想定為替レートは1ドル=142.42円。前期より約7円円安に振れる。通年でいくらの増益要因になるかは公表していないが、23年4〜12月期の実績で営業利益を130億円押し上げた。
任天堂が保有するドル建てやユーロ建ての現預金を円に換算する際にでる評価益も大きい。23年4〜12月期は営業外収益に342億円の為替差益を計上した。
グループの人気キャラクターをゲーム以外のビジネスに活用するIP戦略も増益に寄与する。今期の任天堂は23年4月に公開した「マリオ」の映画を筆頭に、食品メーカーなどと組んだコラボ商品の開発に力を注ぐ。
全国のスーパーの販売データを集める日経POS(販売時点情報管理)情報によると、23年の1年間に商品の名称に任天堂のIPを含むコラボ商品は「スーパーマリオ」だけで55製品が発売され、22年の5倍に達した。マリオ以外では「星のカービィ」が125製品、「スプラトゥーン」が38製品で、それぞれ22年から倍増した。
日経POS情報のデータに入らない期間限定でコラボした製品も多い。ヤマザキビスケットは23年9月から24年1月まで「チップスター」のパッケージに「ドンキーコング」などをあしらうキャンペーンを実施した。森永乳業は23年春にアイスの「ピノ」にスーパーマリオのキャラを印字した。
コラボ製品の開発強化とマリオの映画の大ヒットにより、23年4〜12月期の「モバイル・IP関連収入」は前年同期比9割増の752億円に伸びた。6日、オンラインで記者会見した任天堂の古川俊太郎社長は「映画の公開でIPに対する注目が集まり、勢いをもって(23年11月〜12月の)ホリデー商戦に突入できた」と話した。
同時に発表した23年4〜12月期の連結決算は、売上高が8%増の1兆3947億円、純利益は18%増の4080億円だった。純利益は4〜12月期としては過去最高を更新した。
古川氏は早くて24年中の発売が噂されるスイッチの後継機に関しては「コメントすることはない」とした。来期については「未知の領域が続くが、24年もスイッチを主軸にビジネスを続けていく予定」と強調した。
後継機への期待もあり、任天堂株は高値を追う展開が続いている。6日の終値は8376円と24年初から16%値上がりした。1月10日に約16年ぶりに10兆円を超えた時価総額は、6日終値ベースで10兆8778億円まで上昇し、過去最高水準にある。
今期の予想売上高営業利益率は31%と、4期連続で30%を超える見通し。営業利益が4872億円だった16年前(08年3月期)と比べ、稼ぐ力の安定性は高まっている。一方で、当時は2機種(ニンテンドーDSとWii)あったゲーム機は現在は1機種(スイッチ)しかない。後継機の評価次第では業績が失速する危うさもはらむ。(平嶋健人)