京アニ放火殺人事件、青葉真司被告に死刑判決 京都地裁
36人が死亡した2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の判決公判が25日、京都地裁で開かれた。増田啓祐裁判長は被告の刑事責任能力を認め、「極刑を回避する事情はない」として求刑通り死刑を言い渡した。
平成以降で最悪の犠牲者数となった殺人事件の最大の争点は、被告の刑事責任能力の有無や程度。弁護側は放火した事実関係については争わず「責任能力は大きく減退していた」として、無罪とするか刑を減軽すべきだと主張していた。
増田裁判長は死刑の主文を後回しにし、判決理由の朗読から始めた。まずは事件当時の被告の精神状態を「心神喪失や心神耗弱の状態ではなかった」と指摘。精神疾患の一つである「妄想性障害」と認めた一方で、犯行は性格や過去の経験で身についた考え方によるものとして「妄想の影響はほとんど認められない」とした。
事件前、現場周辺で怪しまれないように行動していた点を踏まえ、被告は放火が犯罪と認識し、善悪を区別することができたと指摘。直前に犯行をためらっていたことからも「思いとどまる能力が著しく低下していなかった」として、完全責任能力があったと結論づけた。
その上で何の落ち度もない京アニ社員が「さながら地獄と化した第一スタジオで非業の死を遂げた。全員一丸となって作品を作り、希望を持つ方々が将来を奪われた無念さは察するに余りある」と被害の重大さを強調した。
「強固な殺意に基づく計画的な犯行であり、極めて危険で残虐な犯行態様」だとし、自作小説を盗用されたとする妄想をもとに、大量殺害で復讐(ふくしゅう)しようとした犯行動機は「人命を数としてしか評価しない非人間的な思考と言わざるを得ず、理不尽かつ身勝手な意思決定だ」と強い口調で批判した。
法廷での被告の言動について「一応の反省の態度を示した」としつつ、「遺族を逆なでするような発言もあり、被害の実態に十分向き合えていない」との言及もあった。幼少期に受けた虐待や精神疾患を考慮しても「死刑を回避するほどの事情があるとは認められない」と断じた。
これまでの公判で、検察側は「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)。妄想が影響した程度も限定的」などと指摘して死刑を求刑。弁護側は重度の妄想性障害の影響や絞首刑の残虐性も踏まえ「死刑を選択すべきではない」と訴えていた。
一連の公判は23年9月から始まり、12月に結審するまで20回超に及び、①事件の経緯や動機②刑事責任能力の有無③量刑――の3段階に分けて審理された。
多くの遺族らが被害者参加制度を利用して出席し、被告に質問したほか、量刑に対する意見を述べた。
ある遺族から事件で亡くなった人に家族や子どもがいるとは考えなかったのかと問われた被告は「そこまで考えていなかった」と供述。「多大に申し訳ない気持ちがある」と謝罪の言葉を述べる場面もあった。
極刑を望む遺族の意見について「それで償うべき部分があると捉えている」との考えも示す一方、遺族側の代理人に「京アニが自分にしてきたことはすべて不問か」と語気を荒らげたこともあった。
判決などによると、青葉被告は19年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオ内でガソリンを社員らに浴びせて火を放ち、36人を殺害、32人に重軽傷を負わせたとされる。
京アニ社長「無念さ、いささかも変わらない」
京アニの八田英明社長は25日、代理人を通じ「法の定めるところに従い、然るべき対応と判断をいただいた。判決を経ても無念さはいささかも変わらない」などとするコメントを公表した。
八田氏は「亡くなられた社員、被害にあった社員、近しい方々の無念を思うと、心が痛むばかり」としたうえで「今後も作品作りを続けていくことが(犠牲者の)志を繫いでいくものと念願し、社員一同努力してきた。これからも働く人を大切に可能な限り作品を作り続けたい」と記した。
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