Amazonが日本に2兆円投資 AI普及でデータ量急増
クラウドサービス世界最大手の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は19日、2023〜27年の5年で日本に約2.3兆円を投資すると発表した。クラウドの基幹設備であるデータセンターの増設や運営体制強化に充てる。生成AI(人工知能)の普及などに伴うデータ処理量の爆発的な増加を見越して投資を加速する。
AWS日本法人が19日に都内で記者会見を開いて投資方針を説明した。日本で顧客のデータを処理・保管しているデータセンターの設備投資や運用費の総額は2011年から22年の12年間の累計が1兆5100億円だった。23年から27年までの5年間では2兆2600億円を投じる。
成長市場であるインド向けの30年までの投資計画(1兆560億ルピー、約1兆9000億円)を超える巨額投資となる。日本市場重視の姿勢を鮮明にする。
会見でAWS日本法人の長崎忠雄社長は「日本の顧客のデータ利活用を支え、様々な経済波及効果を生み出し、日本の成長に貢献する」と語った。
国内生成AI市場は30年に23年比4.8倍に
背景には日本の企業や行政の旺盛なクラウド需要を取り込む狙いがある。重視するのは今後市場が拡大する生成AIへの対応だ。独調査会社スタティスタによると日本の生成AI関連市場は2030年に23年比4.8倍の87億ドル(約1兆2900億円)に達する見通し。657億ドルの米国や296億ドルの中国に次ぎ、英国やドイツなど欧州先進国を上回る。
生成AIは膨大なデータの学習や質問への回答作成のため、クラウド上で大量のコンピューターを使って情報を処理しなければならない。幅広い業種で生成AIの利用が進み、膨大な情報量を処理するために大規模なデータセンターが必要となる。重要な情報を扱うためデータ処理を国内で完結させたいという企業も多い。
長崎氏は国内にデータセンターを置くメリットについて、「AWSの投資拡大でデータを国外に持ち出さず日本で利用できるようになる。国内にデータセンターがあるので非常に低い遅延でクラウドを使える」と語った。
生成AI向けクラウド需要急増をにらみ、AWSとライバル関係にある米マイクロソフトや米グーグルも日本のデータセンター投資を急ぐ。マイクロソフトは23年2月に西日本で複数のデータセンターを稼働させた。グーグルも日本初のデータセンターを千葉県印西市に建設して23年3月から稼働している。
AWSやマイクロソフト、グーグルの存在感は公共分野でも大きい。3社はデジタル庁が整備し政府や地方自治体が共同利用する「ガバメントクラウド(政府クラウド)」の提供事業者に選定されている。国内勢は、さくらインターネットが23年に初めて選定されたばかりで出遅れている。他に国内のクラウド事業者はソフトバンクやNTTグループなどがある。
大手3社の寡占に警戒感
ただし寡占には警戒感が出ている。世界のクラウド市場ではAWS、マイクロソフト、グーグルが合計で3分の2のシェアを握り、上昇傾向にある。AWSは地域別の売上高を公開していないが、日本でも世界と同様の傾向にあり3社の持つシェアは高い。
生成AIの開発や利用には大規模データセンターが必要で、クラウド大手の支配力が一段と強まるとの見方がある。一部の企業の影響力が高まりすぎると、料金の高止まりなどが発生しかねない。
自治体向けのITシステムなどでは、開発や管理を特定のIT企業に依存する「ベンダーロックイン」が長年問題視されてきた。クラウドも特定企業のサービスを使い込むほど別のサービスへの切り替えが難しくなり、顧客の囲い込みが生じやすいとの指摘がある。
クラウド大手に対する監視の目は世界で厳しさを増す。欧州連合(EU)は巨大IT企業の活動を規制するデジタル市場法(DMA)を今春にも全面適用する。
AWSは今回明らかにした投資政策によって日本の国内総生産(GDP)に5兆5700億円寄与すると主張している。日本経済への貢献度をアピールするのには外資脅威論を抑える狙いもある。(高槻芳)