「不正輸出で起訴」取り消し 東京地裁が違法捜査と認定
生物兵器製造に転用できる装置を無許可で輸出したとして起訴され、その後取り消された「大川原化工機」(横浜市)の社長らが国と東京都に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(桃崎剛裁判長)は27日、捜査を違法と判断した。国と都に約1億6千万円の賠償を命じた。
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判決は「必要な捜査をせず漫然と逮捕した」と厳しく断じた。捜査機関の恣意的な法令適用に警鐘を鳴らした司法判断といえる。
安全保障環境の厳しさや複雑さが増すなか、警察当局は軍事転用可能な製品が海外へ流出しないか監視を強めている。輸出規制の対象に当たるかどうかが焦点となる事案は少なくなく、不備が指摘された捜査手法の検証が求められる。
原告側は捜査手法だけでなく、規制対象製品を巡る警視庁の解釈も誤りだと訴えていた。判決は警視庁が外為法を所管する経済産業省に解釈を確認した経緯を踏まえ「合理的な根拠が客観的に欠如しているとまではいえない」と述べた。
判決は製品の構造を詳細に分析すれば、規制対象にならないとの証拠を得ることができたと指摘。合理的な根拠を欠きながら嫌疑があるとした警視庁公安部や、有罪立証の上で必要な捜査をせずに起訴した検察官の判断は違法だったと認定した。
公安部捜査員による取り調べの一部については「あえて解釈を誤解させ(輸出規制の要件にあたると)認める供述調書に署名するよう仕向けた」とし、「偽計を用いた取り調べで違法だ」と批判した。
警視庁は2020年、液体を粉末化する噴霧乾燥装置を不正に輸出したとして同社の大川原正明社長(74)と取締役だった島田順司さん(70)、顧問だった相嶋静夫さんを外為法違反(無許可輸出)の疑いで逮捕した。
東京地検は起訴したが、初公判直前の21年に「規制対象に当たるか疑義が生じた」として起訴を取り消した。大川原社長と島田さんの勾留は約11カ月に及び、相嶋さんはがんの診断後も保釈が認められず起訴取り消し前に72歳で亡くなった。
訴訟では公安部で捜査を担った警部補が事件について「捏造(ねつぞう)」と証言する異例の経過をたどった。
判決を受け、警視庁訟務課は「判決内容を精査した上で今後の対応を検討する」とのコメントを出した。