政府系コロナ融資、不良債権6% ゼロゼロなど8700億円
政府系金融機関が中小企業に行った新型コロナウイルス対策融資で不良債権が拡大している。実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などの不良債権が2022年度末に約8700億円と全体の6%になったことが会計検査院の調べで分かった。回収不能額は既に697億円に上る。民間の融資分も含めれば不良債権は2兆円を超す可能性があり、スピード優先の副作用が出ている。
検査院は7日、官庁や政府出資法人を調べた22年度決算検査報告を岸田文雄首相に提出した。検査で税金の無駄遣いを指摘したり改善を求めたりしたのは344件、総額約580億円だった。
併せて日本政策金融公庫と商工組合中央金庫によるコロナ対策融資の検査結果を示した。同貸付は国が財政援助しており、焦げ付きは国民負担になる恐れがある。検査院は債務者の状況把握を適切に実施するよう求めた。
ゼロゼロ融資はコロナ禍で需要が蒸発した中小企業の資金繰りを支えるため20年3月に公庫や商工中金など政府系金融機関で取り扱いを始めた。
融資要請が殺到し同年5月から民間金融機関でも受け付けるようになった。合計の利用件数は22年9月末時点で約245万件、実行額は約43兆円にのぼる。民間分も同様の傾向ならゼロゼロ融資全体の不良債権は単純計算で2兆円超になる可能性がある。
公庫と商工中金の22年度末までの貸付実績は19兆4365億円で5兆582億円が返済され、残高は14兆3085億円だった。回収不能額を減損処理する「償却」は697億円あった。
「正常債権」は13兆5064億円だった。回収不能の恐れがある「リスク管理債権」が8785億円、公庫が回収不能の可能性が高いとして償却した「部分直接償却」が1246億円あった。
リスク管理債権の額は20年度末の3倍強になった。8785億円の内訳は、返済が3カ月以上遅延したなどの「要管理債権」が4929億円、経営・財務が非常に悪化した「危険債権」が3731億円だった。経営破綻先の「破産更生債権」などが124億円だった。
ゼロゼロ融資はコロナ禍で中小企業の資金繰りを支え、倒産や失業者の急増に伴う社会不安の抑制に効果を発揮した。半面、大手銀幹部が「非常事態でほぼ目をつむって貸していた」と話す通り、スピードを重視した結果、すでに経営が行き詰まっていた企業を延命させたり審査が甘くなったりする副作用を生んだ。
金融庁によると銀行や信金など民間金融機関の融資に占める不良債権比率は22年3月末時点で1.6%。民間を補完する役割の政府系金融機関の不良債権比率はおのずと高くなりがちだ。
ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産は増えている。東京商工リサーチによると20年7月から23年9月までの累計の倒産(負債額1000万円以上)件数は1077件。23年4〜9月は333件で前年同期比44%増えた。23年5月から5カ月連続で50件を超えるなどペースは速まっている。
旅館業を営んでいた猪の倉(津市)は9月、津地裁から破産手続きの開始決定を受けた。コロナ禍の行動制限で来客数が大幅に落ち込み資金繰りが悪化。ゼロゼロ融資を受けて事業継続を目指したものの、過去の設備投資による負担もかさみ、再建を断念した。
背景にあるのがゼロゼロ融資の返済本格化だ。元本の返済猶予期間が終わる企業が続出し23年7月には約5万社で返済が始まった。物価高や人手不足が経営の重荷になる中、ゼロゼロ融資の返済が重なって資金繰りに窮する企業が増えている。
帝国データバンクによると、実質破綻状態でありながら事業を続ける「ゾンビ企業」は21年度末で約18.8万社と、コロナ禍前の19年度から約3割増えた。
金融機関の融資姿勢にも問題はあった。ゼロゼロ融資は自治体が最初の3年間は利子を企業に代わって払うのに加え、返済が焦げ付いても信用保証協会が肩代わりする。金融機関はほぼリスクを負わずに貸し出しを伸ばすことができるため、地銀や信金は競い合うように利用を促した。
未曽有の危機に直面して審査が甘くなったのは海外も同じだ。
米国では20年春に担保不要で保証料なしの「給与保護プログラム」など中小企業向けの緊急支援を実施した。米中小企業庁が6月に公表した報告書によると、1.2兆ドル(約180兆円)の緊急支援のうち360億ドル分で不正が見つかった。不正の9割弱はプログラム開始から当初9カ月間で発生した。
経済活動が急停止する未曽有のコロナ禍で、経済の底割れを防ぐためにゼロゼロ融資などの資金繰り支援は必須だった。ただし、いつまでも延命的な支援は続けられない。M&A(合併・買収)や事業譲渡で雇用を確保するなどして、再生の見込みがある企業に支援を集めるといった政策が求められる。
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