IHI、15年ぶり最終赤字900億円 航空機エンジン不具合で
IHIは25日、2024年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が900億円の赤字(前期は445億円の黒字)になりそうだと発表した。従来の500億円の黒字予想から一転、09年3月期以来15年ぶりの最終赤字となる。赤字額は過去最大となる。開発に参画する航空機エンジンの製造工程で不具合が発生し、検査費用などを計上する。
売上高は前期比4%減の1兆3000億円、営業損益は800億円の赤字(前期は819億円の黒字)と、従来予想から1500億円、1700億円それぞれ引き下げた。エンジンの追加整備や航空会社への補償など約1600億円を費用計上する。
米航空防衛大手RTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)傘下のプラット・アンド・ホイットニー(P&W)製の航空エンジン「PW1100G」で大規模な点検修理が必要となった。欧州エアバスの主力小型機に搭載されている。
製造工程で不具合が発覚し、RTXは最大35億ドル(約5200億円)の費用がかかるとの見通しを示す。IHIは共同開発プログラムに約15%出資しており、出資比率に応じて収益やコストを分け合っている。三菱重工業や川崎重工業も参画している。
航空エンジンの製造過程で異物が混入したことが不具合の原因で、検査対象のエンジンは約3000台にのぼる。点検にはエンジンを機体から取り外す必要があり、代替エンジンで補えずその間飛行機は飛べなくなる。24〜26年にかけて年平均350機の飛行機の運航に影響が出る。
IHIは追加整備などで今回約1600億円の費用を24年3月期に一括計上した。これまで参加した開発プログラムで損失は過去最大になるという。同日の電話を通じた説明会でIHIの盛田英夫取締役は「追加の費用が出てくることは基本的にない」とした。
不具合の原因はP&Wの製造過程にあるが、同社への損害賠償請求について盛田氏は「現状、考えていない」とした。ただ、P&Wの瑕疵(かし)が判明した場合は検討する可能性も示唆した。
IHIの自己資本比率(22%、6月末時点)は大きく毀損することになる。同社はこれまで業績が悪化すると、土地などの資産売却で補塡してきた。現在も東京都江東区の豊洲などに資産を保有し、含み益は2014億円(3月末時点)となる。同社は「保有資産の有効活用も非常に重要な選択肢の一つで、検討を始めている」とした。
野村証券の前川健太郎シニアアナリストは「過去には他の航空エンジン開発プログラムで複数年にわたり損失発生が続いた事例もある。今回も検査などの対応は数年にわたるため最終的な影響は見極める必要がある」と指摘する。