AI使い信号制御、都内の渋滞対策 警視庁が全国初導入
警視庁は都内の渋滞対策の一環として人工知能(AI)に信号機を制御させる取り組みを始める。過去の交通データを基にAIが渋滞状況を予測し、青信号の長さなどを自動調整し抑制を図る。信号制御へのAIの本格導入は全国の警察で初めてとみられる。渋滞による経済損失の軽減と業務の効率化を目指す。
都内の交通渋滞は長期的には改善傾向にあるが、2022年の主な一般道路の平日平均で123キロに及ぶ。都内には全国で最多の約1万6千基の信号機があり、うち約8千基は交通管制センターで制御している。
現在は道路上の車両感知器により交通量を把握し、渋滞の発生や拡大が見込まれる場合はセンターの職員が手動で青信号の長さを数秒延ばすなど調整している。道路を映すモニターの確認などが必要で、渋滞の抑制に時間がかかることがあった。
今後はAIの導入で調整作業の自動化を進める。AIは交通量や平均速度といったデータを基に30分後の渋滞の長さを40メートル以下の誤差で予測できる。スムーズに車が流れるように青信号の長さを迅速に調整する。
AIは住友電気工業などが開発した。警視庁は22年度から渋滞予測のため活用し、精度や実効性を確認。数カ所の交差点で近く制御をAIに切り替え、効果を検証し導入を広げる方針だ。同センター幹部は「渋滞の抑制に加え、業務の効率化にもつながる」と話す。
AIを使う信号制御は中国の一部都市で導入例があるほか、ジャカルタ当局も23年に活用を発表した。渋滞のメカニズムに詳しい東京大の西成活裕教授は「渋滞を的確に抑制できれば、物流の遅れといった経済損失や排ガスによる環境汚染の軽減が見込める」と指摘する。
一方、課題もある。警視庁が使うAIのシステムは交通事故の発生やイベントの開催といった突発的な渋滞の要因を認識するのが難しい。こうした場合には職員がモニターなどで渋滞を確認し、信号を制御する必要がある。
信号機は安全な道路交通の要で、システム障害があれば混乱を招きかねない。AIや管制システムはインターネットからは隔離されサイバー攻撃被害の危険性は低いが、警視庁は障害の発生にも備え24時間体制で保守点検を行う。西成教授は「実務での活用を通じて課題を洗い出し、改良を重ねていくべきだ」と話した。
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