京アニ放火 検察「筋違いの恨み」弁護側「心神喪失」
36人が死亡した2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた無職、青葉真司被告(45)の裁判員裁判の初公判が5日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれた。「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)」とする検察側に対し、弁護側は被告が心神喪失状態だったと主張。平成以降で最悪の犠牲者数となった殺人事件は刑事責任能力を巡って争われることとなった。
青葉被告は起訴内容を認めた。弁護側は「事実関係は争わない」としたうえで「心神喪失で無罪か、それが認められなくても心神耗弱で刑を半分に減軽されるべきだ」と訴えた。
被告は過去に精神疾患による通院歴があり、これまで2回にわたって精神鑑定が実施された。検察側は冒頭陳述で、被告には完全責任能力があると主張。「うたぐり深く、他人のせいにしやすい被告のパーソナリティーが京アニや関係者への怒りを駆り立てるとともに、妄想を生み出し、犯行動機を形成した」とした。
検察側は京アニを狙った経緯についても詳述した。
職を転々としていた被告が京アニ作品に感銘を受けたことをきっかけに小説家を志したものの、同社のコンクールに応募した2作品が落選。インターネット掲示板でやりとりし、恋愛関係にあるという妄想も抱いていた同社関係者から「アイデアを盗用された」と思い込むようになったと説明した。
怒りを募らせた被告は、事件1カ月前の19年6月18日に無差別殺傷を企て、包丁6本を持って自宅のあるさいたま市の大宮駅前に向かったが断念。その後も自宅アパートの隣人の胸ぐらをつかんで暴言を吐くなどのトラブルを起こし、7月15日に「人生がうまくいかないのは京アニのせい」などとして「復讐」を決意したという。
新幹線で京都に向かった被告は京アニの第1スタジオを下見し、ホームセンターでガソリンの携行缶やバケツ、着火剤などを購入。恨みを抱いていた関係者以外の京アニ従業員についても「連帯責任」と位置づけ、大勢が働く同社第1スタジオを午前10時ごろに放火する計画を立てたとした。
事件当日は現場近くで実行をためらったが「『自分は作品を盗用されて全てを失ったのに、京アニは成功して許せない』と犯行を決断した」などと事件当時の心情を指摘。「引き返すという選択肢もあったにもかかわらず、実行した」と強調した。
これに対し、刑事責任能力を争う弁護側は「被告にとって起こすしかない事件だった」と主張。中学生の頃から人を避ける傾向があり、20代でアルバイトをしていたコンビニでも人間関係がうまくいかなかったという。
人と関わらずに身を立てられる小説家を志すなか、ネット掲示板で知りあったとする京アニ関係者などにからかわれていると感じるようになったと説明した。
事件を起こしたのは、被告が「闇の人物」と呼ぶ存在が京アニと一体になって嫌がらせをしていると考えるようになったからだと主張。「自分の人生をもてあそぶ『闇の人物』に対する反撃だった」と述べた。
こうした経緯を踏まえ、精神科医の証言を聞いて事件当時の精神状態を吟味する必要があると訴えた。
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