最低賃金、全国平均1004円に 地方中心に24県目安超え
2023年度の都道府県ごとの最低賃金額が18日に出そろった。九州や東北、中国地方で大幅な引き上げが目立ち、24県で中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が示した目安額を超えた。全国平均は1004円と、国が想定した1002円を上回った。地方ほど人材の流出と人手不足が深刻で、最低賃金を通じた賃上げの必要性が強まっている。
審議会が示した全国平均の目安額を上回るのは16年度以来となる。引き上げ幅は時給ベースで39〜47円だった。全国平均は43円で、審議会で想定した41円を2円上回った。全ての都道府県で過去最大の上げ幅となり、岩手県を除いて40円以上の上げとなった。新しい基準額は10月に順次適用される。
中央最低賃金審議会は地域の経済状態に応じて都道府県を「A〜C」の3ランクに分け、それぞれ引き上げの目安額を示している。今年はAが41円、Bが40円、Cが39円だった。
実際には多くの県で目安を大幅に上回る引き上げとなる。上乗せ額は佐賀県が8円と最も多く、山形や鳥取、島根は7円だった。7円以上は現行制度となった02年度以降で初めてだ。22年度は最高で3円の上乗せだった。
地方にあたる「Cランク」の13県のうち、12県が4円以上の上乗せとなった。A、Bランクでは大幅な上乗せはほぼない。最低賃金では大都市と地方の格差が縮む。
審議会では地域別最低賃金の最高額に対する最低額の割合を、地域差を測る目安としている。今回の引き上げ後は最高額が東京の1113円で、最低額は岩手の893円となる。割合は15年ぶりに8割を超える。
最低賃金に近い水準で働く人は増加傾向にある。基準額の改定によって元の給料が新たな基準額を下回り賃上げが必要になる人の割合(影響率)は、30人未満の事業所で22年度に19.2%だった。この10年でおよそ4倍に広がった。
地方で最低賃金の大きな引き上げが続く背景には、人材流出とそれに伴う人手不足への懸念がある。これまでも都市部への流出はあったが、最低賃金の引き上げ幅が年々大きくなり、非正規雇用も増加したことで最賃改定の影響が大きくなっている。地方には「隣県より賃金が低いと人が流出する」との不安がある。
企業は原材料高に加え、人件費の上昇が負担になる。最賃を45円増の898円とした熊本県内の物流会社社長はガソリンの値上がりの影響が大きく、「人件費もとなると、廃業する同業者も増えるのでは」と話す。飲食チェーンの登利平(前橋市)も商品への価格転嫁が難しく「(人件費は)利益を削って捻出するしかない」という。
「採用してもすぐに辞められたら意味がない。良い人材を雇うためなら高い時給も出す」(熊本市内のラーメン店経営者)との声もある。群馬県では会員制量販店の米コストコ・ホールセールが時給1500円以上の募集を出して話題になった。人手のかかるサービス業などでの人材獲得競争は激しい。
全国平均の最低賃金は23年度に初めて1000円を超える。東京都など8都府県で1000円を上回り、働く人の5割超で1000円以上の時給が適用されることになる。景気の回復を通じた自律的な賃金上昇につなげるには、企業の投資を喚起し、人材のスキルを上げて労働移動を活発にするための政策支援を一段と強める必要がある。