そごう・西武労組、スト権確立 セブン側に事前協議要求
そごう・西武労働組合(組合員数約4000人)は25日、ストライキ(スト)権を確立したと発表した。スト権を後ろ盾にして、親会社のセブン&アイ・ホールディングス(HD)側に対してそごう・西武売却後の事業計画や雇用継続についての情報開示、事前協議や団体交渉を求めていく。ストにはなお課題も多く組合側も実行には抑制的な考えだ。
同日、都内で報道陣の取材に応じた寺岡泰博中央執行委員長が明らかにした。組合員の有効投票のうち93.9%がスト権確立に賛成したという。寺岡氏は「これまでのセブン側の対応は不誠実だった。今回の結果は全組合員の意思表示だ。そごう・西武の経営陣にも事業会社として進むべき方向性を具体的に提示してほしい」と強調した。
労使交渉の場には売却に関する決定権を持つセブン側の経営陣の出席を要請する考えだ。
実際にストを実行するかについては「今すぐに争議行為が始まるわけではない。まずは投票結果を会社側に通知し、労使協議の場を持つことを第一とする」などと述べた。
労組はセブン側の対応が変わらなければストの実行も検討する考えだ。ただ百貨店におけるストは1951年、当時の三越での例が国内初とされているが近年では例がない。
実行すれば取引先やそごう・西武で買い物をする消費者への影響は避けられず、レピュテーション(評判)を落とすリスクもはらむ。百貨店の売り場には取引先など組合員以外の従業員も多く働いている。
寺岡氏は「顧客や取引先には迷惑はかけられない」と抑制的な考えを示した。スト実行には会社への事前通告が必要だ。取引先など関係各所との調整や行政への届け出などもいるという。ストの具体的な方法や対象店などについて寺岡氏は「現段階で決めているわけではない」とした。
セブンはスト権確立について「結果へのコメントは差し控える。組合とこれまで以上に丁寧な対話を進めて可能な限り早期の合意形成を目指す。そごう・西武が再成長できる環境づくりを進める」とコメントした。
セブンは百貨店子会社のそごう・西武を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却することで2022年11月に基本合意した。売却後も従業員の雇用を原則維持するとしている。
セブンはこれまで直接の雇用主でないことを理由にそごう・西武労組との団体交渉には応じていない。このため労組は「雇用について組合員を納得させられる材料があまりにも乏しい」(寺岡氏)として売却後の詳細な事業計画の説明を求めていた。
セブン側は井阪隆一社長が「(西武池袋本店の)詳細な改装案をそごう・西武の経営陣を通じて提示する」と述べるなど、労組側への配慮の姿勢を見せ始めている。寺岡氏はこの点について「労使交渉の場を通じて話し合いができれば」と述べた。
セブンは当初、フォートレスへの売却完了の実行日を23年2月1日としていたが、2度の延期を経て4月以降は期限を定めていない。
21日にはフォートレスと連携するヨドバシホールディングス(HD)や、自治体の東京都豊島区などが参加する会合が開かれたものの、一部の参加者からヨドバシの出店計画について依然として慎重な意見が出るなど、関係者間の調整が続いている。
ストを巡っては海外では事例が相次ぐ。全米の俳優ら16万人が加入する俳優組合が待遇改善や人工知能(AI)の規制を巡り、経営側との交渉が決裂し、43年ぶりにストに踏み切った。コーヒーチェーンの米スターバックスでも労組が22年以降、労働条件の見直しや雇用確保などを求めるストを実施している。
労働社会学が専門の常見陽平千葉商科大学准教授は「そごう・西武の事例は日本の労働界にとって意義がある。労使交渉でストという手段があることが改めて見直された」と指摘する。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)