1〜6月の訪日客1071万人 消費単価はコロナ前超え
訪日客数が緩やかに回復している。6月は新型コロナウイルス禍前の水準の7割を初めて超え207万人だった。1人当たり旅行支出は2019年を上回り、4〜6月期の消費総額はコロナ前の95%まで回復した。日本の観光業界は人手不足が続いており、今後の急激な客数増に対応できるかは見通せない。消費単価の向上が重要になる。
日本政府観光局(JNTO)が19日に発表した訪日客数によると、23年1〜6月は1071万2000人だった。1000万人の大台に乗せ、コロナ前の19年同期(約1663万人)比の約6割の規模に戻った。
6月はコロナが急拡大した20年2月以降、初めて200万人を超え、207万3300人。国・地域別では韓国が54.5万人と最多だ。19年6月比で10.9%減った。次いで台湾が38.9万人(15.6%減)、米国が22.6万人(29.2%増)だった。
22年10月に水際措置が緩和されて以降、23年3月からは単月での訪日客は、コロナ前の60%台後半で推移していた。まだコロナ前の水準に届かないのは、航空便の回復の遅れや、中国人の訪日団体旅行の規制がある。
全日本空輸(ANA)の6月末時点の国際線全体の運航便数はコロナ前の6割強の水準で北米はほぼ復調した。一方で中国路線は3割強にとどまる。ウクライナ侵攻の影響でロシア上空を飛行できずに迂回を強いられる欧州路線も5割強の水準だ。
ANAの井上慎一社長は中国や欧州の遅れを念頭に「国際路線全体は23年度中にはコロナ前の100%に戻らないだろう」とみる。
中国政府は日本への団体旅行の規制を続けている。6月の中国本土からの訪日客は20.8万人で個人旅行が支えている。中国でビザ発給数が最も多い上海の日本総領事館によると、6月の発給数は19年平均の約8割に達した。大半が短期滞在ビザで、個人旅行では回復の兆しが見える。
訪日客の数ではコロナ前に届いていないが、経済活性化に欠かせない観光客の消費額では「コロナ前超え」が見えてきた。
観光庁が19日に発表した23年4〜6月の訪日外国人の旅行消費額は1兆2052億円で、19年の同時期の95.1%まで戻った。訪日客1人あたりでみた旅行支出は20万5000円(速報値)で19年同期比32%増えた。
1人あたり消費額が増えたことで、韓国や台湾、フィリピンは訪日数はコロナ前に比べて減ったものの、全体の消費額ではプラスだった。
大きな要因は円安にある。外国為替市場ではコロナ禍前の19年1月は1ドル=108円台前後で足元では139円台。国外とのインフレ差も日本の割安感に拍車をかけた。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストによると、長らく日本に来られなかった観光客が、訪日時に通常よりも購入品を増やしたり、単価が高いホテルに泊まったりするぺントアップ(先送り)需要が強いという。
今後の課題は中国人観光客がさらに戻ってきた場合に、受け入れ体制が整っているかどうかだ。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は23年の日本の旅行・観光部門の雇用は560万人と分析する。19年比で30万人少ない。コロナ危機下に観光部門が低迷し、離職者が相次いだ穴を埋め切れていない状況だ。
受け入れ体制が整う前に訪日客数の増加をいたずらに追い求めると、観光地やリゾート地に混乱を生む可能性もある。訪日客一人ひとりの消費額を増やせれば、数を追わずにコロナ前のインバウンド消費の水準を取り戻せる。
多くの人が観光地を訪れることで、騒音などのオーバーツーリズム(観光公害)も問題になっている。木内氏は「単に観光客の数を追い求めるだけなく、地域経済活性化の観点から地方への誘致や消費単価を増やす観光商品を拡充すべきだ」と、持続可能な観光産業の形を模索するよう呼びかける。
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