路線価2年連続上昇 23年分1.5% コロナ禍から回復鮮明

観光客らでにぎわう銀座(6月、東京都中央区)

国税庁は3日、相続税や贈与税の算定基準となる2023年分の路線価(1月1日時点)を発表した。全国約32万地点の標準宅地は平均で前年比1.5%上昇した。上昇は2年連続。新型コロナウイルスの影響が弱まり、観光地や繁華街を中心に人出や経済活動の回復が著しく、22年の上昇率を1ポイント上回った。

新型コロナの感染症法上の分類が5類に移行する前の評価だが、インバウンド(訪日外国人)客の増加も見込んで上昇地点が広がった。地方都市もにぎわいを取り戻しつつあり、コロナ禍からの回復傾向が鮮明になっている。

都道府県庁所在地の最高路線価が前年に比べて上昇したのは29都市で、22年から約2倍に増えた。22年は5.8%マイナスと下落率が最大だった神戸市が2.0%プラスに転じたほか、下落が続いていた大阪市や奈良市などもプラスに転じた。

標準宅地の変動率を都道府県別にみると、25都道府県が上昇し、前年より5県多かった。最も上昇したのは北海道(6.8%プラス)で、札幌市内や近郊で住宅地の需要が伸びたほか、30年度末の北海道新幹線延伸を見据えて商業地などでも上昇地点が目立った。下落は20県で、和歌山県がマイナス1.2%で最も下落率が大きかった。

繁華街に戻るにぎわい

インバウンドが戻ってきた東京・銀座。38年連続で全国トップの文具店「鳩居堂」前(1平方メートル当たり約4270万円)は前年を1.1%上回り、3年ぶりに上昇に転じた。高級ブランド店の紙袋を両手にぶら下げた中国人男性(46)は約40万円の腕時計と約15万円のバッグを購入。「夏にかけて、もう一度訪れたい」と満足そうに話した。

外国人観光客が戻りにぎわう銀座(6月、東京都中央区)

高級時計店「アワーグラス銀座店」には22年秋以降、1日当たり数十組の外国人客が訪れる。中国人客が大半だったコロナ前と異なり、欧米やシンガポールなど東南アジアの新規客が増えているという。コロナ禍で売り上げが2割程度落ち込んだ時期もあったが「円安などで割安感を覚える外国人客が多い」(運営元の桃井敦社長)。業績は好調だったコロナ前を超えて推移している。

関西屈指の繁華街、大阪・ミナミも回復の兆しが見えてきた。中心部の戎橋周辺は2年連続で各税務署管内の最高路線価地点で下落率ワーストだったが、23年は下げ止まった。閑散としていた道頓堀も平日昼からたこ焼きなどを食べ歩く訪日客でにぎわう。

道頓堀商店会の谷内光拾事務局長は「昨秋から街に来る人は倍近くに増えた」と話す。ドラッグストアなどで「爆買い」していた中国本土からの団体客の姿はまだなく、コロナ前の水準には達していないが「大阪万博が開催される25年に向けてテナント出店の動きも活発になっている」と期待をのぞかせた。

息吹き返した観光地

主要な観光地も回復基調だ。「宿泊客はかなり戻ってきた」。那覇市中心部の国際通り沿いにあるホテルの支配人は手応えを口にする。23年1〜5月の客室稼働率は、19年の同時期とほぼ同水準になった。「中国と那覇を結ぶ直行の航空便再開でさらに訪日客の増加が見込める」と見通しを語る。

清水寺に続く三年坂も観光客でにぎわう(6月、京都市)

コロナ禍で打撃を受けた京都市は国内客も戻った。21年にマイナス8.7%に落ち込んだ京阪電鉄祇園四条駅周辺は23年に6.0%と上昇。清水寺に通じる三年坂に修学旅行の生徒がひしめき合う。

周辺の菓子店で働く20代の女性は「国内客に加え欧米やアジアからの訪日客が戻り、空き店舗もアイスクリームのテイクアウト店などで埋まった。紅葉シーズンに向けさらに観光客が増えるだろう」と声を弾ませる。

郊外の住宅街は

感染拡大中でも上昇地点がみられたのが首都圏近郊の住宅地だ。テレワークの浸透で移住需要の受け皿となった。影響が弱まった現在も、埼玉県や千葉県などの住宅エリアはなお上昇傾向が続く。

「テレワークが移住を大きく後押しした」。東京都内の会社に勤める吉永美奈子さん(36)は23年春、家族4人で東京都港区から神奈川県厚木市に引っ越した。

コロナ禍で導入された在宅勤務制度を利用し、出社は月1〜2回程度。「子どもを自然の豊かな場所で育てたい」と教育環境を重視し中古マンションを購入した。ローンの支出もそれまでの家賃の3分の1程度に収まっている。

不動産市場の好況も郊外にプラスに働く。都内の住宅は中古物件も含めて高騰。9.8%上昇した千葉県船橋市の不動産会社では「都内を諦めて物件を求めて来る人が増えた。都心へのアクセスも悪くない船橋市内の人気は高まっている」(担当者)という。

「今後は地域差も」

都市未来総合研究所の平山重雄・常務研究理事は「繁華街や観光地がコロナ禍の影響から脱しつつあり路線価も順当な数値になった。コロナ前を上回る水準まで上昇していくことも考えられる」と分析する。

都市の近郊では、テレワークの浸透が路線価を押し上げる要因になっているとしながらも「在宅勤務制度の導入は一巡し、出社に回帰する動きもあることから、これからの影響は限定的になる」と予測。さいたま市や札幌市など再開発が進む中核都市で軒並み上昇していることに触れ「今後は回復の進度に地域差が出てくる可能性もある」と話している。

取材・記事
藤田このり、佐藤淳一郎、蓑輪星使