賃金底上げで好循環、骨太の方針決定 負担増踏み込まず
政府は16日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定した。転職促進などの労働市場改革や成長基盤を固める少子化対策で、物価と賃金が安定的に伸びる「好循環」の実現を目指す。半導体などへの成長投資も盛り込んだ。子育て施策や防衛費の積み増しに必要な負担増には踏み込まず懸案は先送りした。
骨太の方針は生産性の向上で賃金を底上げし、消費や設備投資を伸ばすことで「更なる経済成長が生まれる『成長と分配の好循環』を成し遂げる」とうたった。物価高に耐える構造的な賃上げにより「分厚い中間層を復活させる」狙いがある。
少子化対策や労働市場改革、脱炭素、経済安保への政府支出に重点を置いた。市場任せでは投資が手薄になりやすいとみて政府が「予算・税制、規制・制度改革を総動員」すると打ち出した。
岸田文雄首相は16日の経済財政諮問会議と「新しい資本主義」実現会議の合同会議で、骨太の方針に基づき予算編成などを進めて「国民全体が将来に明るい希望を持てる経済社会をつくる」と語った。夏の概算要求や年末の予算編成で具体化する。
少子化対策では児童手当の所得制限を撤廃し、高校卒業時まで給付期間を延ばす。2024年10月分から実施する方針だ。
就労の有無を問わず柔軟に利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」もつくる。これらの施策で地方分も含め年3兆円台半ばの予算が必要と見込む。
成長産業への人材移動に向け、労働市場も改革する。自己都合の離職でも会社都合と同じ7日で失業手当を受給できるようにし、転職の壁を取り除く。
成長投資では半導体や蓄電池などの国内投資促進を盛った。複数年度の計画的な支出を示して民間の予見可能性を高め、設備投資や研究開発を後押しする。
具体策として盛ったメニューは家計や企業に対する支援策が多い。財政支出や税優遇の構想が先行し、高齢化で膨張する社会保障費の抑制や財政運営を持続可能にするための国民負担など、耳障りなテーマは詳しい言及を避けた。
物価と賃金の好循環が実現しても財政運営がおぼつかなければ、家計の消費や出生率向上を左右する若者世代などが抱える将来不安は払拭しにくい。
少子化対策は「国民に実質的な追加負担は求めない」と唱える。歳出改革で原資の一部を確保すると打ち出すが、具体的な項目は未定だ。
政府内には個人が払う健康保険料に月数百円を上乗せする案があるものの、骨太方針では触れていない。年末の予算編成まで制度設計は先送りになった。
23年度から予算を大幅に積み増した防衛費は、いまだに財源が宙に浮いたままだ。
骨太方針では防衛財源の確保に向けた増税について「25年以降のしかるべき時期とすることも可能となるよう」との記述が最終盤で盛り込まれた。税外収入の上積みなどで増税を先送りするよう求める自民党の意向が反映された。
政府は23年度税制改正大綱で、防衛財源として法人税や所得税などを「24年以降の適切な時期」に引き上げる方針を示した。もともと曖昧だった歳入確保策は今回の骨太方針でさらに曖昧になった。
国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する政府目標についても、与党の積極財政派への配慮から、2年続けて本文での明記を見送った。
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正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」。年末の予算編成に向けた基本姿勢や、政権として力を注ぐ政策の方向性を示します。経済財政諮問会議で策定し、毎年6月ごろに閣議決定します。