マイナ給付、本人以外の口座登録13万件 デジタル相
河野太郎デジタル相は7日、マイナンバーと公的給付金の受取口座のひもづけを巡り、本人以外の家族名義の口座を登録する事例がおよそ13万件あったと発表した。給付を担う地方自治体は本人と口座の名義の一致を確かめて振り込むことになるため、支給の作業に遅れが出る可能性がある。
オンラインの記者会見で明らかにした。他人の口座と誤って登録したと疑われる事案は748件に増えた。これまでは15の地方自治体で21件の誤登録が発覚していた。河野氏は「速やかに自身の口座への変更をお願いしたい」と呼びかけた。
デジタル庁は5月下旬に誤登録が明らかになったことから、5400万件程度の全登録口座で間違ったひもづけがないかを点検した。
同一口座に複数のマイナンバーがひもづき、家族名義だと思われる事例を集計した。その結果、銀行口座を持たない子どものマイナンバーに親名義の口座を登録する例が判明した。同庁は「登録者本人と異なる名義の口座を受取口座として登録できない」と周知してきた。
問題が起きた「公金受取口座登録制度」は、マイナンバーを介して1人1口座を国に登録する制度。2022年3月からマイナンバーカードを使った申請の受け付けが始まった。
カードで登録すればマイナポイントがもらえるため、22年6月に200万件弱だった申請件数は半年後に10倍以上増えた。政府はそれを成果として掲げた。
今回のような問題が生じることは予見できたはずだ。政府のシステムは「本人名義の口座のみ」というルールに反する登録をはじく仕組みにはなっていなかった。
口座名義はカタカナで登録される。デジタル庁は「マイナンバーにはフリガナの記載がなく登録内容の照合が難しかった」と釈明する。
同庁は年内をメドに口座のカナ氏名とマイナンバーの漢字氏名を照合するシステムを開発する。一致しない場合は登録できないようにする。
2日に成立した改正戸籍法などによりマイナンバーを通じて氏名のカナを把握できるようになった。改正法は25年6月までに施行する。その後はカナ氏名同士で照合するシステムも導入する。
他人による誤登録の可能性が高い748件への対応策も表明した。対象となる人は個人向けサイト「マイナポータル」から口座情報を閲覧できないようにする。給付を実施する行政機関への情報提供は停止する。一両日中に実施する。
デジタル庁は当初、誤登録の点検の過程で家族名義の登録も見つけたと説明していた。河野氏は6日、国税庁から2月にデジタル庁の担当者に報告があったと修正した。
公金受取口座登録制度ができたきっかけは、新型コロナウイルス対応の「10万円給付」だった。社会保障給付でないためマイナンバーを使った迅速給付ができず、使えたとしても銀行口座とひもづいていなかった。
河野氏は「対策ができるまで何もデジタル化をしないわけにはいかない」と強調した。カード普及を優先し、システムの弱点を抱えたまま見切り発車した点は否めない。
システムの利用が進むほどトラブルや課題が見えてくるのは当然だ。マイナンバーとカードを巡っては、他人の健康保険証とひもづけたり他人の住民票を出力したりするトラブルも相次ぐ。
デジタル庁が巨大なマイナンバー制度を担うに足る組織か、不安を覚える国民は少なくない。
河野氏の説明によると、今回の問題が明るみに出る前に報告を受けた職員は既に同庁の勤務から離れていた。
民間出身者が4割で、残りが各省庁や自治体の出身者で構成される寄り合い所帯だ。「縦割り打破」や「柔軟な組織」の掛け声とは裏腹に、情報伝達や機動性の劣化が目につき始めた。
秋には発足から2年を迎える。制度の改善はもちろん組織運営の検証を進める必要もある。
(上田志晃、デジタル政策エディター 八十島綾平)
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マイナンバーカードとは
自治体に申請すれば無料で交付されるカード。2016年に始まったマイナンバー制度にあわせて本人を認証するために導入した。マイナンバーは日本で住民票を持つ人全員に割り振られる12桁の番号で、社会保障や税の分野で関係機関同士がやりとりする際に個人を特定するために使う。政府は普及のためにマイナポイントの配布やマイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」への一本化を進めている。